4月30日

 仕事は教えてもらえない。見よう見まねで覚えるしかない、だからこそ清水さんは、兄弟子たちとはまったく違う掘り方を編み出した。それは「下書きをしない」ということだった。
 兄弟子たちは皆、彫る前に細筆で活字材に逆字を書き入れる「字入れ」という作業を欠かさなかった。全部で何千点と彫り上げなければならない仕事で、四、五日もかけて一本一本に字入れをしている兄弟子たちの姿を見て、清水さんはいつも「なんて時間がもったいないんだろう。自分はなるべく書かずに彫るほうに集中したい」と考えていた。ただし修行中はそんなことは言えない。生意気だと怒られてしまう。それでも、どうしたら表現できるかを考えることはやめなかった。
「やがて、文字には必ず中心があるから、その中心のところから彫っていけば、字入れせずに直に彫れるとコツがつかめたんです」

種字彫刻師 清水金之助
『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』

3月7日

朝日新聞 3月7日朝刊

折々のことば

ここからここはこうって分けるとそこは垣根をイメージしてしまいますが、そこは「縁側」って思ったらええんやって僕は思います。
笑い飯・哲夫

宗教や国の違いは人々を隔てる垣根のように思われているが、それは「縁側」、つまり人をつなげる「縁」の生じる「場所」ではないかとお笑い芸人は言う。靴を脱がずにちょいと腰掛け茶飲み話をする。そんな互いの<際>がふれる場所。「そこがいっちゃん景色ええんちゃうか」と。釈徹宗との共著『みんな、忙しすぎませんかね?』から。